著書『男コピーライター、育休をとる。』から6年、“子育ての今”を語る【電通社員・魚返洋平さん】

机に向かってペンを手に手紙を綴る男性

2024年9月号「残業できる夫ずるい!」で、「『仕事を中断する心苦しさ』と『育児の大変さ』のダブルパンチを夫婦で一緒に喰らってみる」現在形を語ってくれた7歳1児のパパ、魚返さん。「ほかにもVERYに何か言いたいことってないですか?」という投げかけに、メッセージをいただきました――。

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電通コピーライター・魚返洋平さんインタビュー

「子育ては青春」。
最初は「ふっ」と思ってたんですが、
今はよくわかります。

子どもが小学生になり、熱で呼び出されることがなくなったり、送り迎えの機会が減ったりと楽になった部分があるいっぽう、子育てというのはまた別の悩みが次々と出てくるものですね。我が家では、学童に行くのが辛くなった子どもが、帰宅直後に泣き続ける時期がありました。うちは妻が出勤、僕が在宅勤務ですが、18時には妻も帰宅して夫婦2人で家にいるスタイル。でも僕の仕事が完全に終わりきっていなかったりすると、40分間ほど泣き続ける子どもを妻がフォローしてくれたりして。どうしたものかと夫婦で話し合い、子どもの様子や僕たちの考察を箇条書きにしたメモを作って学童に相談に行き、そこから意識して居場所作りをしていただいて、ひとまずはなんとかなりました。これは弱音なんですが、もし一人だけで対応していたらとても辛かったと思います。まず40分泣く子にマンツーマンで対峙するのはしんどいし、学童への伝え方も一人じゃ迷うだろうし。ツーオペはツーオペでも、夕方家にいるのが今日は妻、明日は夫、みたいな「交代制」で格闘している人も多いと思いますが、そのスタイルでも今回のケースはやはり辛かったかもしれない。子どものあの「泣き」を2人同時に喰らうことで、一人で背負わずに済んだ部分があります。

机に向かってペンを手に手紙を綴る男性

「ワンオペのテレコ」って、
辛い部分もあると思う。

18時以降、仕事を棚上げして夫婦で「同時に」子どもと向き合う。ツーオペのなかでも、交互じゃなくてダブルでやることを「ダブオペ」、とでも言いましょうか。我が家はそうしようと話し合ってそうした訳でもないのですが、そもそも育休を2人同時に取ったこともあって流れでなんとなくダブオペになった感じがしています。もちろん、育休を同時ではなく交代でとるのも機能的だし、国はそれを育休手当で後押ししている部分もある。ただ我が家がダブルにしたのは、同じ瞬間を一緒に体験できるのも楽しそうで良いな、と単純に思ったからです。今は、あと1時間長く仕事できたらいろいろ違うのにな、と思うことはありますが、仮にもし1時間長く働けたとしても、さらにあと1時間、と思うような気もする。それなら、なんとかバッサリと18時半で区切って、家事育児タイムに突入した瞬間に2人で家事育児に取り組むと、相手に対する不満というのはあまり生まれにくかったです。お互い様だよねという感じになるので。フェアなんだと思えることが、メンタリティ的にはとても大きい気がします。

とはいえ、働き方として「それは無理」という男性の声が聞こえる気もします。保育園に入った頃は、「もう少し仕事したかったらしてもいいよ」と妻に言われたことも実はありました。僕がそうしようと思えばできただろうし、実際、同じ社内でもおそらく第一線に立ち続けるために働き方を変えない人もいる。だけど僕は、子どもが0歳の大変な時期を分かち合った手前、自分だけ船からは降りる気にはならなかった。子どもの寝顔しか見られないのはシンプルに嫌だったし、もしそれができないのなら職種や部署を変えてもらうことも考えたかもしれません。出産後働き方を変えるのはこれまで圧倒的に母親が多かったと思いますが、今は父親が転職したりする話もちらほらと聞きます。仕事ばかりしていて子どもと一緒に過ごさなかったら、後々めちゃくちゃ後悔するような気がするけど、いっぽうで仕事をバリバリやらなかったという後悔をするかといえば、もうそれはない気がする。もちろん第一線でやりきれない葛藤がなくはないし、20代でバリバリやり切った感が僕自身はあるからかもしれない。実をいうと、育休をとった同業男性のロールモデルもいなかったから、復職した当初は結構寂しかったんです。でも、コロナ禍を経て、ロールモデルは別にいなくてもいいんじゃない?と思えるようになった。あ、そうか、むしろ自分が誰かの参考になることはあるかもしれない。それでいいんじゃないかと割り切れたんですよね。

机に向かってペンを手に手紙を綴る男性

VERYには、「パパとママの青春」が
少ない気がします。

それまでの自分は、この仕事について「大活躍しないとかっこ悪いんじゃないか」という価値観があったと思います。でもコロナ禍で出社しなくなって半径5メートルの世界で生きていると、周りでめちゃくちゃ大活躍している同僚の姿が直接的に目に入らなくなって、楽になっていった。第一線の呪縛というのは特に広告業界では強いけど、働く人なら皆持っている感情かもしれないですよね。今も、華々しく活躍をしている人を見ていいなと思うことはもちろん、ある。でも今からそちらに寄って行くかといえば、そういう気にはならないんです。華々しさを目指さないからといって幸いにも「魅力的な仕事を失った」ような感覚はないし、仕事ならいくらでもあります。ただし、できるだけ打ち合わせを短く済ませようとか、もっと人に頼れるところは頼ろうとか、意識が変わっていきました。最近は、打ち合わせでも「今日は子どもが熱を出してしまいリスケさせてほしい」と言ってくるのが男性である場合もあります。10年前ではほとんどなかったですよね。男性が家庭の事情を理由に仕事をキャンセルすることはなかったし、あったとしても違う理由を言っていたはず。子どもが熱を出してバタバタするのって、子育てしていれば絶対起こることです。そういう事態を誰も喰らわないようにするのは絶対無理なので、みんなで喰らうほうがいい。子どもが熱を出して、と言ってもらえると信頼されている感じがするし、大変なのはわかるから全然いいですよ、となる。そうやって職場の心理的安全性が生まれていけば、また違う仕事観やロールモデルが出てくる気もしています。

そもそも、すでに50代と20代では、職業人の理想像って全然違いますよね。VERY前編集長の今尾朝子さんの本の帯に「子育てって青春だ」という言葉があって、最初は「ふっ」と鼻で笑っていたんです、ごめんなさい。今はわかります。2024年の春、保育園の送迎が終わりを迎え、言葉にはできないほどの寂しさと喪失感が僕を襲いました。子どもが少しずつ成長し、青春の終わり、が少し見えかけたのかもしれません。VERYを読んでいると、「ママと子どもの」青春っぽさとかママ友同士の戦友っぽさは感じるいっぽう、夫婦にとっての青春という感じはあまりしません。でも実際はそういう面もあると思っています。LINEのオプチャで「パパ育チャット」というものがあって覗いているんですが、およそ実際の人間関係や、もしかしたら夫婦間でも吐露しないようなパパたちの悩みがたくさん投稿されています。パパたちも、育児や夫婦関係について、言えないだけで弱音をたくさん抱えているんだなとよくわかりました。外からはあんまり見えないだけで、青春を分かち合える・分かち合いたいと思っているパパが潜在的にはたくさんいるんじゃないかと、思ったりしています。

PROFILE

魚返洋平さん
著書『男コピーライター、育休をとる。』(大和書房)を’19年に刊行、’21年にWOWOWでドラマ化。約半年の育休後、18時半までに仕事を切り上げるスタイルで6年、朝夕の送迎を担当。現在子ども7歳、スーパーフレックスのフルタイム勤務。共働き。

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撮影/金玖美 取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2025年1月号「魚返洋平さんインタビュー・背景VERY様」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。