【保育料が経費にならないの、なんで?】共働き世帯が考えたい税制のこと

働くためには、子どもを保育園や幼稚園に預けることは不可欠。でも現在の日本では、確定申告で保育料は経費と認められていません。それを疑問視した育児中の弁護士が、2025年2月、国に対して訴訟提起しました。その経緯や、訴訟によって変えていきたいことについて伺います(*2024年3月取材)。

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子育てしながら仕事をすることが
どういうことなのかを問いかけたい

 

――「保育料=経費ではない」。確かにどうしてだろうと素直に思いました。

戸田善恭弁護士(以下戸田):所得税法で経費に当たるもの・当たらないものが定められており、経費に当たらない代表的なものとして日用品・食費などの「家事費」があげられます。現在の実務では保育料はこの家事費に含まれると一般的に考えられています。これは保育は家庭内で完結するとされている状態だともいえます。この考え方のベースにあるのが、「男性が外で稼ぎ女性が家で子を保育する」旧来の家庭像ですね。

 

――家庭内の出費だから保育料は経費にならない。つまり保育は、女性がタダでやるものだという従来的な考えが根本にあるんでしょうか。

戸田:そのように思います。接待費はプライベートな分と境目が曖昧で場合によっては飲み会やゴルフ代などが計上できたりもしますよね。でも、子どもを保育園や幼稚園に預けないと仕事はできません。それが「家庭内のことだから」と認められないのは、やはりおかしいと思います。確定申告する必要があるフリーランスの人口が増えていますが、社会的な支援が乏しく、出産前後は特に大変な時期です。育休手当もないのに保育料も経費にならないのは、不合理に感じました。

 

――コロナ禍で保育園が閉まり、育児をしながら仕事するのは無理だという悲鳴がたくさん上がりました。経費として認められることで、保育士の仕事の価値向上にもつながるかもしれません。

戸田:子育てしながら仕事することがどういうことなのか、今一度裁判を通して世の中に示していけたらという思いもあります。保育士の高い専門性や価値、また保育の必要性も社会全体で見直されることにつながればいいですよね。我が家も2歳の子どもがいて、今年から保育園に入ります。子育ては本当に大変だと夫婦で実感しているところで、預けなければ仕事は絶対にできません。

亀石倫子弁護士(以下亀石):副業をされる方も増え、確定申告し始めたという方も多いと思います。2019年に3~5歳までの保育料無償化が始まったものの、2012年から年少扶養控除がなくなっており、子育て支援としては不十分と感じます。男性が外で働き女性が家を守るという価値観が一般的だった頃は問題意識を持たれなかったけれど、共働きも一般化した今、時代に追いついていない税制は見直されてほしいと思います。

 

(左)戸田善恭弁護士(右)亀石倫子弁護士
(左)戸田善恭弁護士(右)亀石倫子弁護士

 

――年少扶養控除は2012年に廃止、16〜18歳までの控除もまもなく廃止される見込みだという話も聞きます。子ども手当も高所得者は対象になったりならなかったり(2024年12月からは所得制限撤廃の予定)揺らいでいますよね。

亀石:異次元の少子化対策は道半ばですよね。子どもを育てるのにあまりにお金がかかりすぎ、2人3人と産みたいけれど産めないという人がいるのも頷けます。もっと安心して子育てできる社会になってほしいです。

 

――SNSで訴訟について公開したとき、反応がすごかったとか。

亀石:Xでも200万弱ほどのビューがありましたし、原告になってもいいという方からもたくさんご連絡をいただきました。国からの反論も予想されますが、訴訟によって世論を喚起していくことで制度を変えることを求める声が可視化されて、見直される契機になればと期待しています。

 

一点突破で社会を変えられるかも
しれない「訴訟」に希望を感じます

 

――亀石さんたちは「公共訴訟」を支える専門家集団LEDGEとして活動されていて、今回の訴訟もその一環ですが、そもそも公共訴訟とは何でしょうか。

亀石:司法という手段で、社会のおかしな法律や制度を変えようとするのが「公共訴訟」です。私は「わたしの体は母体じゃない」訴訟を主任弁護士として起こしています。生殖機能を取り除くことを希望する女性がいても、母体保護法により不妊手術は「配偶者の同意や数人の子どもを有していること」が条件になっているんです。女性は生まれながらにして子どもを産むのが当然だという価値観のもと、生殖に関しての自己決定権を奪われているように感じました。この訴訟も若い女性たちが原告として参加してくださり、すごく心強かったです。裁判の原告になるのは負担感もあるし、場合によってはバッシングされたりすることもあるのに、それでも立ち上がってくれた方々がたくさんいました。それがすごく希望で。

戸田:私たちの訴訟は、クラウドファンディングや市民の方の寄付によって成り立っているので、原告となる方の金銭的負担は一切ありません。また、CALL4という公共訴訟のためのオンラインプラットフォーム上で裁判資料を公開しています。

 

――デジタル署名などの活動に参加したことがある読者さんも増えていますが、訴訟という形の市民運動の可能性を感じました。

亀石:署名などの運動は数も必要ですが、司法であればたった一人でも国を訴えることができ、理屈が通れば勝てるのが気に入っているところです。

戸田:政治の過程で解決が図られなかったことも、裁判で法的に議論を組み立てていくことで一点突破で社会問題を解決できる可能性があります。それを狙いつつ、法律を変えるには同時並行で社会的なムーブメントを作っていくことも大事です。公共訴訟は、法改正に向けたロビイングなどの働きかけとセットで行われることが多いです。LEDGEで支援している選択的夫婦別姓訴訟についても提訴しましたが、世論の後押しもあり、夫婦別姓を認めようという声が増えてきているように感じます。

亀石:世の中の声が多数派になれば司法を動かせるわけではないですが、裁判官も訴訟が新聞や雑誌にどう報道され、それに対して世の中がどう反応しているのかは見ています。多分、Xなどもご覧になっているんじゃないかと思うのですが、その反応が、司法に対して世の中の当たり前が変わった証拠になるんです。

 

――声を上げることが、新しい世の中を作る後押しになるかもしれないんですね。

亀石:そう思います。社会をアップデートさせていくための一つの方法として、公共訴訟が皆さんに認知されていけばいいなと思います。

 

亀石倫子さん
一般社団法人LEDGE(https://ledge.or.jp/)代表。法律事務所エクラうめだ所属。2009年大阪弁護士会に登録。共著に『刑事弁護人』(講談社現代新書)。

戸田善恭さん
法律事務所LEDGE所属。コンサルティング会社等の勤務を経て、2020年に弁護士登録。「立候補年齢引き下げ訴訟」「保育料を経費に!訴訟」主任弁護士。

撮影/杉本大希 取材・文/有馬美穂 編集/羽城麻子 画像/AC
*VERY2024年6月号「保育料が経費にならないの、なんで?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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