小島慶子さんが考える「子どもの金融教育」

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「子供の金融教育」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、昨年から10年ぶりの日本定住生活に。

『リアルな会話にこそ、真の幸せあり!』

もしも100万円手に入ったらどうする!? クリスマスギフトやお年玉の季節に、お子さんとそんな話をしてみるのも面白いですね。「私は憧れのブランド腕時計を買う!」などと親の物欲を開示するもよし。一方で、子どもは100万円と言われてもピンとこず、使い道がよくわからないかもしれません。せっかくなので、100万円あれば何ができるのかを親子で一緒に考えてみましょう。

まだ息子たちが小学生だった頃、オーストラリア、パースのハーバーに停泊している売り出し中の4,000万円のヨットを見て「かっこいい! ぼくこれ欲しい」と大興奮。そのとき私は「あのな、これを買うということは、4,000万円が支払えるだけではなく、それをハーバーに浮かべておくためのお金と、美しく安全に保つためのお金と、さらにはこれに乗って遊ぶ時間的余裕と、それに伴う出費を賄えるだけの収入が必要なのだよ。4,000万円のボートがどうしても欲しいなら、それだけのお金が手に入る仕事に就くために自分はどんな努力をする必要があるのかを調べたまえ。自分が4,000万円のボートでないと幸せになれないのか、400万円の車でハッピーになれるのか、40万円の自転車で喜びを感じるのか、4万円の本で豊かな気持ちになれるのか、それもよく考えたまえよ。自分に必要なお金がどれぐらいで、それをどうしたら稼ぐことができるのかを知っておくことはとても大事なことだぞ」と話しました。

街を走るフェラーリやランボルギーニに歓声を上げる息子たちには「スーパーカーは確かに美しくてかっこよくて欲しくなるのもわからんではないが、あの車1台分のお金で何十人もの子どもが学校に行けることも知っておきたまえ。1億円の車も50万円の中古車も同じ信号で止まり、同じ規則を守って走行せねばならんのだ。A地点からB地点に行くという目的のためにいったいいくらを支払うのが妥当なのか。何かが欲しくなったら、それと同じ金額で何人の人の暮らしを劇的に向上させることができるか、世界を少しでもマシなところにすることができるかを考えることも大事だぞ」と話しました。

いちいち理屈っぽい母親ですが毎度、念仏のように話して聞かせていたので、息子たちの頭のどこかには残っているかもしれません。

今の自分の生活にいくらぐらいかかっているかを具体的に知るのも、子どものお金の感覚を養うのにとても役に立ちます。1年間の学費がいくらで、親の収入や貯蓄や借金はいくらあるのか。私は息子たちがハイスクール(中高)に通っている頃から、我が家の経済状況を全て開示してきました。コロナ禍でも随時情報を更新。「私がコロナ禍の混乱を乗り切れたのは、たまたま貯蓄があったから。パンデミックはまた必ず起きるから、君たちも将来に備えて、最低でも1年~1年半分の生活費は貯蓄しておくように」とも常々話しています。息子たちは実際にコロナ禍で世の中がストップして、母親が不安な日々を呻吟しながら過ごしたことをよく知っていますから、コツコツ備えているようです。

投資についてはこんなふうに話しています。「君たちは、世界一のお金持ちにも絶対に手に入らない資産を豊富に持っている。それは時間だよ。時間はいくらお金を積んでも取り戻すことができない。若いということは、時間という資産をたくさん持っていることなんだ。だからその貴重な資産を最大限活用するといいよ」と。少額でもいいから毎月積み立てて、早く投資を始めること。市場の変化に一喜一憂せず、長期的に利益を出す構えで運用すること。お金について知ることは、子どもが「自分にはやりようがある」と知ることでもあります。親としては「お金ならいくらでもあるから、考えなくてもよろしい」と言ってあげられたら! とも思いますが、それでは自立する力がつきません。たとえ実際にお金の心配のないお家でも、子どもが「自分の使うお金は自分でなんとかできる、使い道を自分で決めることができる」と思えるような教育は不可欠です。

お金は命に直結する、便利なもの。食べ物の栄養や安全性に関する知識と同様、お金に関する知識も身を守り、命を繫ぐものです。親子で一緒に投資の基礎を学ぶのもよし、お金と幸せについて話し合うのもよし。巳年は金運に恵まれる干支だそうですから、いい機会かもしれませんね。

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2025年2月号掲載時のものです。

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